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EUでビジネスを行うメリットとどの国で始めるべきか

巨大な単一市場、安定した政治やインフラなどEUでのビジネスには多くのメリットがあります。 そして、EU内のどの国でビジネスを始めるのが良い決断となるのでしょうか?

ヨーロッパでビジネスを行うメリット4つ

ヨーロッパでビジネスを行うメリットには以下のようなものがあります。

5億人の巨大市場

ヨーロッパは第二次世界大戦後に、悲惨な戦争に対する反省から平和な欧州を築こうとする意志と、アメリカやソ連といった二大勢力に対抗する意志から、欧州各国の統合を始めました。現在EUという形で実現したこの連合が定める政治的、経済的取り決めによって私たちはEUのどこか一か国に対してアクセスを得れれば、他の合計27か国の欧州諸国の土地や市場にも容易にアクセスすることができます。そのため、EU域内は合計27か国の国々が作り上げる消費者5億人の巨大単一市場とみることができるのです。

それはEUが域内の経済を活性化させるために次のような取り決めを行っているからです。

  • 通貨の統合

    ユーロ導入以前は、ドイツの会社がデンマークやスイスでの営業活動で利益を得る場合は、デンマーク・クローネやスイス・フランといった外貨で獲得しており、それらをドイツのマルクに変換する場合は為替リスクや手数料の支払いという問題がありました。しかし、ユーロが1999年に導入されたことによって、EU内のユーロを導入している19か国ではこうした為替リスクや取引コストを気にすることなく自由に取引が行えるようになりました。

  • 域内の関税の廃止

    EU加盟国間での取引に対しては関税の支払いがありません。そのためEU内のある国で販売する商品やサービスは、他のEU諸国でも関税を支払うことなく、販売を行うことができます。

  • 共通のルールと規制

    EUは、域内を巨大な単一市場とするために、商品・サービスの製造方法やビジネスの行い方を共通のルールと規制で統一させています。そのため、販売する商品・サービスをその一つの統一されたルールに従わせるだけで、域内の27か国で同様に販売ができるのです。

能力の高い労働者

ヨーロッパは、世界中から注目を集める教育機関が豊富に存在します。大学や専門学校では最新の技術や理論が教えられ、学生たちはさまざまな分野において専門知識を身につける機会が提供されています。それはエンジニアリング、マーケティング、会計だけでなく、科学、芸術、人文科学といった幅広い分野に及びます。これらの高度な教育機関から卒業した学生たちは、能力が高く、よく教育された労働者として企業にとっての価値が高い存在となります。

また、ヨーロッパは多言語地域であるため、多言語話者の雇用も可能です。これにより、特定の市場に特化した戦略を展開したり、異なる文化圏の消費者に対する理解を深めたりすることが可能となります。特に国際的なビジネスを展開する企業にとっては、異なる言語と文化の理解は絶対的な強みとなるでしょう。

さらに、ヨーロッパは高い生活水準と労働条件を提供しており、これが優秀な人材を惹きつけ、留める役割を果たしています。

割安で企業に有利な税制

ヨーロッパはその法人税制度において、企業が成長し繁栄するための財政環境を提供しています。例えば、アイルランドでは法人税率が12.5%と設定されており、これはアメリカの平均法人税率と比較すると格段に低いです。このような低税率環境はアイルランドが世界的な企業の欧州本部として選ばれる重要な理由の一つであり、AppleやGoogleといったテックジャイアントもその恩恵を受けています。

加えて、ハンガリーもまた9%の法人税率を設定していて、これは欧州連合(EU)内で最も低い税率となっています。このように、多くのヨーロッパ国家が企業に対して低い法人税率を提供することで、新たなビジネスチャンスを引き寄せ、投資を奨励しています。

このような低税率環境は、企業にとって大きなメリットをもたらします。経費の削減はもちろんのこと、得られる利益を再投資に回すことで、新たなビジネス展開や研究開発に対する資金提供を可能にします。これにより、企業は競争力を保つとともに、成長と進化を続けることができます。

さらに、ヨーロッパの多くの国では、研究開発(R&D)投資に対する税制優遇措置も取られています。このような制度は、イノベーションとテクノロジーの進歩を促進し、企業が新しい製品やサービスを開発し、市場に投入することを奨励します。例えば、フランスでは「リサーチ・タックス・クレジット(Crédit d'Impôt Recherche)」という制度があり、企業がR&Dに投じた費用の一部を税金から差し引くことができます。

これらの例からもわかるように、ヨーロッパで事業を行うことは、企業にとって資金面での大きな利点をもたらす可能性があります。経費の削減と高い利益は、企業が競争力を保ち、持続的な成長を達成するための重要な要素となります。

安定した政治とインフラ

ヨーロッパの政治的安定性は、企業がリスクを最小限に抑え、長期的なビジネスプランを策定する上で極めて重要です。この地域の国々は、大半が民主主義国家であり、法の支配が確立しているため、事業運営における予測可能性と信頼性が高まります。例えば、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーは世界で最も政治的に安定した国々とされています。これらの国々は、社会保障制度の充実や政策の透明性、公平な司法制度を通じて企業と市民の安心感を保障しています。

ヨーロッパの充実したインフラもビジネスを進展させる大きな要素です。ヨーロッパは鉄道、道路、港湾、空港などの物理的インフラが非常に発展しており、これにより製品やサービスの物流は円滑に進行します。たとえば、ロッテルダム港(オランダ)は世界最大の海港であり、アントワープ港(ベルギー)もまたヨーロッパで二番目の大きさを誇ります。これらの港は、アジア、アメリカ、アフリカへの製品の輸送という観点から見ても非常に重要な役割を果たしています。

また、ヨーロッパのデジタルインフラもまた世界レベルで高度に発展しています。例えば、北欧諸国は高速インターネット接続の普及率が非常に高く、これにより電子商取引や遠隔労働、データ駆動型ビジネスが可能となっています。加えて、データセンターやクラウドサービスも充実しており、企業はこれらのサービスを活用してITインフラを迅速かつ安価に構築できます。

これらの要素から考えると、ヨーロッパでのビジネス展開は、企業にとって高い予測可能性と効率性をもたらします。政治的安定性と充実したインフラは、不確実性やリスクを減らし、より長期的なビジネス戦略を計画し、実行するための信頼性ある基盤を提供します。

欧州のどこがビジネスを始めるのに適しているか

世界銀行は2002年から、世界中の190の経済圏と都市において、ビジネスの行いやすさを評価して順位付けするプロジェクトを始めました。

これは、その地域において中小企業がビジネスを始める際の規制や環境についての定量的なデータを収集して評価することで作られています。

それらの評価指標は多岐にわたり、会社を登記する段階から税金の支払い、破産の解決についてまで、ビジネスを行う際の一連のライフサイクルに関して評価が行われています。

doing business indicatorの評価指標(世界銀行より抜粋 https://archive.doingbusiness.org/en/about-us)

※しかし、このdoing businessプロジェクトは2018年と2020年に不正なデータ修正が内部告発されたため、2020年を最後に提供を終了しました。ワシントンDCに本社を置くウィルマーヘイル法律事務所が調査を依頼され、半年以上をかけて関係者へのインタビューなどを行なった結果、今年9月15日に最終的な調査報告書が提出されました。その内容としては、中国、サウジアラビアが自国の評価をよく見せようという目的からDoing Businessに圧力をかけて、中国、サウジアラビア、アラブ首長国、アゼルバイジャンのデータを改ざんさせたというものです。

その件の詳細につきましては、以下をご覧ください。

https://thedocs.worldbank.org/en/doc/84a922cc9273b7b120d49ad3b9e9d3f9-0090012021/original/DB-Investigation-Findings-and-Report-to-the-Board-of-Executive-Directors-September-15-2021.pdf

https://policy.doshisha.ac.jp/keyword/2021/1001.html

調査報告書において、それらの国以外のデータ改ざんは報告されていないため、Doing business2020のEU版をもとにして、ヨーロッパのビジネス環境を説明します。

Doing Business2020のEU内における順位は以下のようになっています。

1位 デンマーク (全体では3位)

2位 イギリス  (全体では9位)

3位 スウェーデン (全体では12位)

4位 リトアニア  (全体では14位)

5位 エストニア  (全体では16位)

6位 フィンランド  (全体では17位)

7位 ラトビア    (全体では19位)

8位 アイルランド  (全体では23位)

9位 ドイツ     (全体では24位)

10位 オーストリア   (全体では26位)

これらの国が上位にランクインしている理由は何でしょうか?上位三か国であるデンマーク、イギリス、スウェーデンについて説明します。

デンマーク

  1. 透明性と安全なビジネス環境:

    デンマークは透明性と法の支配が確立した国です。この国では、ビジネスプロセスにおける汚職や贈収賄はほとんど見られません。加えて、世界有数の教育水準と最小限の官僚主義により、外国からの投資家にとっても安心してビジネスを行うことができます。

  2. 高度に教育を受けた人材:

    デンマークは高等教育を受けた労働力を持つことで知られています。国民の大半が英語を流暢に話すため、国際的なビジネスに取り組む際のコミュニケーション障壁が大幅に低減します。

  3. イノベーションとテクノロジーのリーダー:

    デンマークはクリーンテック、ライフサイエンス、食品イノベーションといった分野で世界的に認知されたイノベーションのリーダーです。この国には数々の研究機関や大学があり、新しいテクノロジーとアイデアをビジネスに生かすための支援体制が充実しています。

  4. 環境に配慮したビジネス環境:

    デンマークは持続可能性と環境に対する認識が非常に高く、2030年までにCO2排出量を70%削減するという野心的な目標を掲げています。これはデンマークが環境に配慮したビジネスを推進する先進国であることを示しています。

  5. 高い生活の質:

    デンマークは世界で最も幸福な国民の一つであり、生活の質が非常に高いと広く認識されています。公共の教育や医療、児童手当や産休などの社会保障制度が充実しており、ワークライフバランスを重視する従業員にとって非常に魅力的な環境と言えます。

イギリス

  1. シンプルな税制

    :イギリスの税制は比較的シンプルで、2017年時点の法人税率は20%と設定されています。さらに、英国は二重課税を防ぐために他国との間で条約を結んでおり、そのために本拠地を英国に置く企業は外国配当に対する法人税を支払わないことが多いです。また、ほとんどの商品やサービスには20%の付加価値税(VAT)が課されています。

  2. 熟練した労働力の豊富さ

    :英国には熟練した労働者が豊富に存在しており、その数は3000万人を超えています。また、英国は今後15年間で労働供給の増加が見込まれるヨーロッパ諸国の一つでもあります。

  3. 労働者の保護

    :英国には従業員を保護するための規制が設けられている柔軟な労働市場が存在します。これにより、雇用主はチームメンバーの生活を向上させるために事前に確立されたルールや規制に従うことができます。

  4. 強力なインフラストラクチャ

    :英国にはエネルギー、交通、廃棄物管理、通信などの分野で強固なインフラが整備されています。持続可能な変化と積極的な改善に重点を置いているため、事業運営を成功させるための基盤が確立されています。

  5. 管理しやすい規制

    :英国は現在、税務、金融、法務などの分野で、自国のニーズに合わせた独自の規制を自由に制定できる状況にあります。これにより競争が激化し、成長の大きな機会が生まれています。

スウェーデン

  1. 低い法人税

    :スウェーデンはEUの中で最も低い法人税を課しています。さらに、利子に対する全額税額控除を認めており、正式な過小資本規制は存在しません。

  2. オープンな経済

    :スウェーデンはイノベーションと競争を促進するオープンな経済を持っています。政府はバイオテクノロジーや食品加工などの分野の成長を積極的に支援しています。また、貿易に対してオープンで、バルト三国、インド、ブラジルなどの成長市場の支援に取り組んでいます。

  3. イノベーションハブ

    :スウェーデンはグローバルイノベーションインデックス、欧州イノベーションスコアボード、ブルームバーグイノベーションインデックスにおいて高評価を受けており、イノベーションハブとしての評判を確立しています。国内総生産の3%以上が研究開発に費やされており、医薬品開発、バイオテクノロジーツール、デジタルツールなどの分野で大きな進歩を遂げています。

  4. スタートアップの強力なエコシステム

    :スウェーデンはスタートアップのホットスポットであり、ストックホルムとヨーテボリという二つの最大都市には大手テクノロジー企業の本社があります。人口当たりのユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)の数は、シリコンバレーに次ぐ高さです。SpotifyとSkypeといった有名なテクノロジー企業もスウェーデンでスタートアップとして設立されました。

  5. 製品テストに適した市場

    :スウェーデンは市場が小さいため、新しいアイデアや製品を大規模市場に展開する前のテストに適しています。

以上がヨーロッパでビジネスを行うメリットと、中でもどの国がビジネスを行いやすいかに関する記事です。

参考サイト

この記事は主に以下のサイトを参考にして書かれました。

https://www.doingbusiness.org/content/dam/doingBusiness/media/Profiles/Regional/DB2020/EU.pdf

https://www.wolterskluwer.com/en/expert-insights/doing-business-in-sweden#:~:text=Sweden

https://aadmi.com/why-is-denmark-considered-one-of-the-best-countries-for-doing-business/

https://velocityglobal.com/resources/blog/top-6-benefits-business-united-kingdom/#:~:text=Ease

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