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ヨーロッパに海外展開する際に留意すべき点4選

ヨーロッパ市場への進出は、多くの企業にとって魅力的な選択肢であります。巨大な経済圏、統合された法制度、豊かな歴史と文化、そして多様なビジネスチャンスがあるためです。しかし、その魅力と同時に、ヨーロッパへのビジネス展開は困難も伴います。本記事では、ヨーロッパへの海外展開を考える企業が知っておくべき4つの重要なポイントを紹介します。

ヨーロッパへの海外展開の魅力

2023年現在、魅力的な成長市場として名前が上がるのは、インド、東南アジア、アフリカ、などではないでしょうか。その一方でヨーロッパは成熟市場として認識されていて、魅力的な市場として語られることは少ないです。しかし、ヨーロッパ市場も巨大で魅力的であることを覚えておく必要があります。

ヨーロッパ市場は、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、スウェーデン、ポーランドなどの国々から形成されています。経済的には、ユーロを共通通貨として使用する国々が多く、これにより国内取引の円滑化を実現しています。法律的には、EUの共通法を基にした法制度が統合を推進し、また陸続きの地理的特性は交易を盛んにしています。さらに、外交や安全保障の分野では、各国が協力して課題に取り組むなど、一体化が進んでいます。これらの特徴が組み合わさることで、ヨーロッパ市場はGDP規模で2020年では約17兆1千億ドル(名目値)とアメリカに次ぐ巨大市場を形成しており、日本の3倍以上の市場規模があることがわかります。

欧州連合(EU)統計局は2022年1月1日時点の域内人口を4億4680万人と発表しており、EU脱退をしたイギリスを加えると5億人を超えます。また日本とEUの取引規模は全世界の約36%に達しており、これは両者にとって主要な商業パートナーの存在を示しています。そのため、日本とEU間の企業拡大や産業セクターの対話の推進は積極的に行われています。

そして何より、ヨーロッパという魅力的な世界観と歴史的背景に憧憬を抱く人は多いのではないでしょうか。ヨーロッパへ海外展開するとなると、必然的にヨーロッパを訪れ、深く関わる機会を得ます。これは経営者や事業に関わる人にとって魅力的な挑戦になるのではないでしょうか。

とはいっても、ヨーロッパ市場は魅力的でありながら、進出難易度が高い地域でもあります。本記事では、ヨーロッパに海外展開する際に、留意すべき点を述べていきます。

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1. 法律・規制

ヨーロッパは法律や規制は常に先進的で世界のルールメイカーとしての面がある一方、その規制の厳しさはビジネス上のハードルして立ちはだかります。アメリカが新しいテクノロジーの発展でゲームチェンジを行なってきたのに対し、EUは規制変更によるゲームチェンジをする傾向があります。例えば脱炭素に関する規制は特に厳しく、例えば車のCO2排出を2035年までにゼロにするよう求める規制案を示しています。ガソリン車やハイブリッド車(HV)は販売が事実上禁止されるという過激なものです。またゲノム編集に関しても日本やアメリカ、南米に比べて厳しい規制が敷かれています。ChatGPTなどのLLMが興隆するとイタリアが真っ先に規制をしきましたし、2023年4月には偽情報の拡散防止を目的として、GoogleやTwitterに厳しいデジタル規制を適用すると発表しました。このセクションでは、特にビジネスに関係する法律や規制を取り上げます。

1.1 EPA / FTA

EPA(経済連携協定)は、国や地域間で行われる協定であり、貿易障壁の排除や投資の自由化などを通じて経済的な連携を強化することを目指しています。具体的には、関税の削減や廃止、サービス貿易の自由化、投資の保護と促進、知的財産権の保護強化などが含まれます。

FTA(自由貿易協定)は国や地域間の協定で、物品の関税やサービス貿易、非関税障壁の削減や撤廃によって経済関係の強化を図る為に締結される協定です。

企業が「ヨーロッパ」への「海外展開」を考える際、EPA/FTAは重要な要素となります。なぜなら、EPA/FTAにより、ヨーロッパの各国との貿易が容易になり、製品やサービスの市場進出がスムーズに行えるからです。また、関税の削減や廃止により、コスト削減の機会も生まれます。逆にEPA/FTAを利用せずに輸出をしてしまうと、現地の競合に対して価格競争で不利になってしまいかねません。そのため、ヨーロッパ進出を考える企業は、該当するEPA/FTAの内容を理解し、それをビジネス戦略に取り入れることが重要です。

しかし、こういったEPA/FTAは自社の競合優位性を高めてくれる可能性がありつつも、原産地証明書発給の要件を満たすために書類準備や計算しなければならず、専門的な人材が必要です。

1.2 脱炭素

ヨーロッパ(EU)は世界の中でも最も脱炭素に関する規制が厳しく、かつ先進的である地域と言えるでしょう。「Fit for 55」に向けて次々と大胆な法案を可決しており、幅広い企業がCO2規制の影響を受けるでしょう。

例えばEUは国境炭素調整措置(CBAM、国境炭素税)を導入する。環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかけるという制度だ。国境炭素税が導入されれば、EUに輸出する際には関税がかかり、コストが上がり、製品の競争力が著しくそがれることになる。

さらに情報開示の強化を行なっており、EUタクソノミーを策定しています。EUタクソノミーは、欧州において提供する金融商品や投資対象となる事業活動が欧州のサステナビリティ方針の基準に適合しているかを判断するために、企業および金融機関の情報開示を義務付ける規制です。これにより、企業は欧州のCO2削減規則に沿った取り組みを強化し、適時サステナビリティ情報を開示する必要があります。

1.3 食品規制

EUでは、我が国からの輸出品である調味料や菓子などの加工食品に対して特別な規制が設けられています。これらの製品は、魚粉末、液卵、脱脂粉乳といった動物性原料と植物性原料を混合したもので、EUでは「混合食品」として特定されています。ただし、ハム・ソーセージ、かまぼこなど、主に畜水産物を主原料とする加工食品は、この「混合食品」の定義には含まれず、これらの製品の製造にはEUのHACCP認定施設が必要となります。

また、欧州では農薬の使用に対する警戒感が増しています。例えば、ドイツでは2021年にグリホサート系の除草剤の使用を段階的に禁止する方針を発表しました。これは、グリホサートが発がん性を持つ可能性について議論があるためです。さらに、欧州委員会は2022年6月に「2030年までに化学農薬の使用を半減する」という方針を公表しています。これにより、EU域外から輸入される農産物についても農薬の使用削減が求められる可能性があり、また残留農薬の基準も厳格化される可能性があります。

1.4 化学物質規制

ヨーロッパへの製造業の進出を計画する際には、化学物質に関する厳格な規制への対応が重要となるでしょう。欧州連合(EU)は化学物質に対する規制の一つとしてREACH規則を2007年に施行しました。この規則では、既存の化学物質だけでなく新規の化学物質に対しても、EU内で年間1トン以上販売するためには、欧州化学品庁(ECHA)への登録が求められています。また、製品が意図的に化学物質を放出する場合や、有害性が懸念される特定の物質(SVHC)を含む場合には、情報の提供や特定の手続きが必要となります。

同様に、RoHS指令という特定の有害物質の使用制限に関するEU法もあります。この法律は、電子機器のリサイクルを促進し、廃棄時に環境や人々への影響を最小限にすることを目指しています。また、WEEE指令という電子機器の廃棄に関するEU法も存在します。そして最近では、ECHAは2023年にパーフルオロアルキルとポリフルオロアルキル化合物(PFAS)についての新たな規制案を提出しました。

これらの規制は広範囲の化学物質を対象としており、製造業者は自社製品がこれらの規制に該当するかどうかを確認し、必要に応じて対策を講じるべきです。

1.5 AI・デジタル規制

2023年3月、イタリアのChatGPT一時禁止が話題になりました。イタリアに限らず、現在EU全体の統一規制を定めるために動いています。

現在検討されている規制は、EU域内でAIが使用されているソフトウェアを一部使用禁止とするものです。日本国内で使っていたAIシステムが使えなくなる、といったことも起きるかもしれませんし、特にソフトウェアのヨーロッパへの海外展開を考えている企業は、EU域内での販売が難しくなる可能性があります。

EUのAI規制案では、AIツールをそのリスクレベルに応じて分類し、それぞれのリスクレベルに応じて使用者に異なる義務を課すことが提案されています。法案は、公共空間での顔認識の使用、予測型警察ツール、およびOpenAIのChatGPTのような生成AIアプリケーションに新たな透明性要件を課すことを決定しました**1**。

法案は、欧州議会、欧州連合理事会、欧州委員会の代表者が参加する"trilogue"の交渉を経て最終条項が合意されると、6月に欧州議会で採決される予定です。法案が法律となった後は、影響を受ける当事者が規制に準拠するための猶予期間が約2年間設けられる予定です。

全世界の他の地域では、それぞれがAIを規制する独自のアプローチを開発中です。例えば、アメリカでは連邦レベルと州レベルでAIの規制策が提案されており、中国ではAIのサービスを規制する提案が公開されています。

以上の情報は一部未完成で、まだ完全な規制の詳細を提供することができません。特に、一般目的AIシステムへの規制についての詳細情報が欠けています。それに関する更なる情報を見つけるためには、更なる調査が必要です。

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2. 地政学的・経済的リスク

地政学リスクとは、政治的、社会的、経済的な状況によって生じるビジネスリスクのことを指します。それらのリスクは国や地域の安定性、法的規制、政策の変化、社会的紛争、経済の健全性、自然災害など、様々な要素によって引き起こされます。2023年のヨーロッパに海外展開する上で考えるべき地政学リスクについて詳しく説明します。

2.1 グローバルな経済減速

2023年は2001年以降で最も低い成長率を見込んでいます。これは、ロシア・ウクライナ戦争、中国のCovid危機、気候関連の出来事、予測困難でますます保護主義的な貿易政策、そして継続的なパンデミック関連の経済歪みなど、さまざまな地政学的な挑戦に直面しているからです。これらの圧力は経済全体で感じられ、インフレとそれに続く利上げ、供給チェーンの混乱、エネルギー価格の上昇、労働市場のヒートアップなどが例示されます。特にEUはロシア・ウクライナ戦争の影響でエネルギー、農産物、住宅の価格が上昇し、地域全体でインフレ圧力と生活費危機が深刻化しています。

2.2 供給チェーンの問題の継続

パンデミックの高まりを経て、供給チェーンの問題は依然として解決していません。需要の減少と労働力の獲得に関する継続的な困難がこの問題を牽引しています。これは生産の遅延、製造能力の問題、船舶の使用率など、供給チェーン全体に影響を及ぼしています。供給チェーンの労働力も問題となっており、特に米国の鉄道業界、西海岸の港湾、英国の鉄道と郵便サービスなどでは、労働者が近月中にストライキを行うか脅しをかけています。

ヨーロッパに海外展開を考えている企業は、供給チェーンが乱れると、必要な部品や原材料の供給が遅延する可能性があります。これは生産スケジュールを遅らせ、製品の市場投入時期に影響を与える可能性があります。特に、製造業や消費財産業など、物流に強く依存している企業は大きな影響を受ける可能性があります。

3. 物理的な距離・時差

3.1 物理的な距離

ビジネスを運営する上で、物理的な距離は無視できない要素です。物流・サプライチェーン管理、顧客との直接的な接触、さらにはオフィス間の協力といった、ビジネス運営の根幹部分に影響を及ぼします。具体的には、商品をヨーロッパに輸送する場合、長距離の物流チェーンが必要となります。これは、輸送コストの増加、配送時間の延長といった問題を引き起こす可能性があります。

例えば、ヨーロッパへの海外展開を考える企業が西ヨーロッパや南ヨーロッパをターゲットにした場合、最低でも12時間程度の渡航時間が必要となります。この時間は、フライトだけで消費され、実際にビジネスを行う時間が大幅に減少します。現地に駐在員を配置しない場合、対面での仕事には大きな制約があります。さらに、フライト費用や現地の滞在費も高くなります。往復で最低でも20万円以上の費用がかかり、さらにホテルや物価も高いヨーロッパでの生活費用が上乗せされます。これらは、企業がヨーロッパ進出を計画する際に考慮しなければならない要素です。

さらに、ロシア・ウクライナ間での戦争の影響により、2023年5月現在においても一部中国系の航空会社を除き、ロシア上空の飛行が難しくなっています。迂回ルートを取ることにより、航空時間の更なる延長が生じているようです。

3.2 時差のハードル

ヨーロッパへのビジネス展開においては時差が大きな課題となります。たとえば、東京とパリの間には通常、7時間の時差があります。この時差は、ビデオ会議、電話会議、または即時性を要する問題の解決に影響を及ぼします。

特にカスタマーサポートの対応は、現地企業に指摘されるケースが多いようです。7時間前後の時差がある場合、言語の問題を差し置いても即時対応のカスタマーサポートの設置は難しく、現地で体制を敷くほかありません。しかしヨーロッパは人件費が高く、国にはよりますが日本より高くつく可能性があります。

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4. 多様性と文化的ハードル

ヨーロッパでのビジネス展開は、単に新しい市場に進出するだけでなく、新たな視野を開き、新しい価値観を理解し、それを自社のビジネスモデルに統合する機会でもあります。それはまさに、ビジネスのフィールドでの「文化的な翻訳」を行うプロセスとも言えるでしょう。言語、エチケット、価値観、働き方の違いを理解し、それらを尊重し、自社の戦略に統合することで、ヨーロッパの各国でのビジネスを成功に導くことができます。

4.1 ビジネスエチケット

エチケットは一言で言ってしまえば、文化の一面を表す「振る舞い方」のことです。例えば、ドイツでは時間に対する尊重が非常に重要です。ドイツ人は時間厳守を高く評価します。もし会議が10時に始まるとされていたら、それは10時に始まるという意味です、それは10時にドアをノックして入る時間ではないのです。遅れることは、他人の時間を軽視する行為と見なされます。一方で、南ヨーロッパの国々では、時間に対する概念はよりフレキシブルで、遅れることがより許容されます。これは"時間"という概念に対する異なる文化的解釈が反映されています。

4.2 言語

ヨーロッパは多言語地域であり、ビジネスを展開する際には言語の問題が大きな障壁となります。特にフランスを例にとると、英語は共通の業務言語として広く使われていますが、全体のフランス人の約39%しか一定のレベルで英語を話せないとされています。しかも、その内の多くは非常に基本的な英語しか話せません。

したがって、フランスでビジネスを行う際には、フランス語をある程度理解し、尊重することが重要です。特に、フランス人は英語を話すことができるかもしれませんが、外国人がフランス語を全く試そうとせずに英語を話すことを期待すると、それを失礼と感じることがあります。そのため、ビジネスを行う際には、まずフランス語で話しかけ、英語を話すことができるかどうかを尋ねることが推奨されます。

フランス以外の国においても、都市を離れるほど英語の普及度は大幅に低下します。たとえば、パリでは観光業界で英語が広く話されていますが、他の都市、例えばトゥールーズ、ストラスブール、マルセイユ、ボルドーでは、英語の普及度は低く、基本的なフランス語のフレーズが有用とされています。

以上のように、フランスの例を見ると、その国の言語を一定程度理解し、尊重することが、ヨーロッパで海外展開を成功させるための重要な要素であることがわかります。

4.3 社会的価値と規範

ビジネスは、それが行われる社会の価値観と規範に大きく影響を受けます。例えば、北欧の国々では環境に対する強い意識があります。サステナビリティがビジネスのコア価値となっていない企業は、それがその地域の深く根ざした価値観と一致しないため、受け入れられにくいかもしれません。逆に、サステナビリティに取り組むことで、ビジネスはそれ自体が地域社会の一部となり、消費者からの信頼を勝ち取ることができます。

4.4 ワークライフバランス

ヨーロッパで海外展開をするのであれば、現地でヨーロッパ人の採用をすることもあるでしょう。ヨーロッパの多くの国々では、仕事と私生活のバランスが重視されています。例えば、デンマークでは、労働者の働き方に対する理解が深く、フレキシブルな働き方やリモートワークが一般的に受け入れられています。これは、人々が仕事だけでなく、家族や趣味、自己啓発にも時間を費やすことを重視する文化的価値観の反映です。ビジネスをデンマークに展開する場合、このようなワークライフバランスを尊重する企業文化を作り出すことが、従業員の満足度と生産性を高め、長期的な成功につながるでしょう。

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結び

ヨーロッパという地域は、サステナビリティや多様性、安全保障など、常にルールや考え方の最先端を歩んできた地域です。50以上の国と地域がそれぞれ独自の言語、文化、歴史、宗教、伝統を持つ複雑性の中で、EUを中心に統一された単一市場を形成してきました。ヨーロッパへの海外展開は、その複雑性のハードルを乗り越える必要がありますが、非常にダイナミックで魅力的なものになるはずです。