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世界一のイノベーション力を持つスイスに学ぶ

スイスにあるのは豊かな大自然や酪農やハイジを生み出した土地だけではありません。スイスは、アメリカやイスラエルなどを超すイノベーション力を有しているのです。その秘密を見てみましょう。

スイスの歴史

スイスと言えば、どのようなイメージがあるでしょうか。公用語が四か国語あり、大自然が存在し、永世中立国である。これらのことも合ってますが、実はスイスはものすごいイノベーション大国なのです。この記事では、そうしたスイスのイノベーション力、経済の強みの裏にある秘密を紹介します。

スイス誕生の歴史は13世紀にさかのぼります。13世紀末、スイスは当時、現在のドイツ、オーストリアあたりを支配していた神聖ローマ帝国内の3つの州が同盟を結んで誕生しましたが、周囲を神聖ローマ帝国の他の州に囲まれながら、独立を保っていました。

17世紀に入るとヨーロッパでは大規模な宗教戦争である30年戦争が1618~1648年の間、戦われました。人類史上最も破壊的な戦争の一つであるこの30年戦争の講和条約であるウェストファリア条約でスイスは神聖ローマ帝国からの独立を果たしました。

ここからフランスやオーストリアなどの大国に挟まれながらも独立を保っていたスイスは、18世紀末のナポレオンの圧力で、フランスに支配されることになります。

フランスによる支配がしばらく続きましたが、ナポレオン戦争が終結し、欧州の新たな世界秩序を構築する1814年のウィーン会議によってスイスは再び独立を果たしました。この会議においてスイスは永世中立国として認められ、1848年には連邦国家としてスイス連邦が誕生しました。

第一次世界大戦では中立を維持し、第二次世界大戦でも形式上は中立を維持していましたが、戦後には、実際はナチスドイツの財産管理をしていたとして国際社会から批判されました。

戦後の世界では、永世中立の方針から国際連合に加盟していませんでしたが、2002年に国民投票による可決をもとに、加盟が決定しました。

スイスの産業

スイスの産業はもともとその広大な自然を活かして酪農が主要なものでしたが、国の発展に伴い、現在は第二次産業、第三次産業も発展し、多くの先進国と同様の産業構成となっています。

第二次産業の中心は化学工業、精密機械工業、機械工業などの製造業であり、第三次産業の特徴としては、金融・保険業や運輸業、観光業が大きいです。

製造業は貿易依存度が高く、輸出入も30%程度で、数十パーセントの日本と比べるとわかる通り、貿易立国ということができます。

金融業

スイスは昔からその中立国家という方針と安定的な政治体制のため、各国から資産の安全な保管先として資金が流入してきており、金融業を発展させてきました。スイスには世界最大規模の二大銀行であるUBSとクレディ・スイスが存在すると同時に、個人資産管理銀行も多数存在し、世界中の資産家の資産管理を請け負っています。

観光産業

スイスにおいて忘れてはならない重要な産業が観光業です。観光産業はスイスが持つ豊かな自然を活かしたものですが、スイスの観光産業が発展している理由には政府の工夫もあります。スイス政府は、美しい国土や安全な治安を維持し、インフラが整備された状態を保持するために尽力しています。高速道路網を整備しつつも、大型車の通行を規制し、水力発電に依存しつつも、発電用ダムの建設を禁止し、農業政策では生産性ではなく景観を守る農家に対しての直接補助金を準備しています。国の政策全体が、スイスを美しく保つことを重要な目的としているのです。

イノベーション国家 スイス

アルプス山脈や広大な自然、酪農、ハイジなどがスイスという国から思い浮かべられる一般的なイメージだと思います。しかし、それらより認知度は低いですがスイスに関する重要な事実として、スイスはGlobal Innovation Indexで、アメリカや中国や他の先進国を押しのけて12年連続で一位に輝いているということがあります。

Global Innovation Indexとは国際連合の15個ある専門機関のうちの一つであり、1970年に創設された世界知的所有権機関が毎年公表している指標です。これは各国の、年間で取得される特許の数、対GDPに占める研究開発費の割合、教育システムの強固さによって決められます。

スイスはこれらの観点や、他にもフィンテック、医薬品、食料品などの多用な分野にファンドを投資しているという点で、長年他の先進国を押しのけて揺るぎない評価を受けています。

様々な評価指標がある中で、スイスが優れているのは以下の指標です。

  • GDP比における特許取得数が世界一位

  • GDP比における特許協力条約数が世界一位

  • 全ての取引額に占める特許使用料が世界一位

  • 企業活動がしやすくするための政策が世界一位

他にも様々な指標がありますが、こうした複数の分野でスイスはイノベーションを起こす実績、能力、環境が高く評価され、Global Innovation Indexで12年連続で首位にいます。

スイスの人材教育システム

スイスの教育システムの特徴はドイツと同様に、生徒が早くから自分の進路を大学に進学して高度な教育を受けるコースか、職業訓練校に行き特定の分野で技術を磨いた職人になるコースかを決定するところにあります。

小中の義務教育を終えた段階で、スイスの生徒は自身の進路を選択する必要に迫られます。その割合としては、およそ3割が大学に進学し、7割が職業訓練校に進みます。

多くの人間が職業訓練校に進む理由としては、日本で一般的に持たれている職業訓練校のイメージと違い、スイスでは職業訓練校で専門の分野の職人となった人間でも、キャリアや給料の面で大卒の人間に劣らないことが挙げられます。

職業訓練校に進むことを決定しても後に進路の変更は可能であり、経営幹部や管理職になる道も閉ざされていません。また、スイスでは銀行員と公務員と製造業の間で給与格差はほとんどなく、さらに大卒よりも職業専門教育を継続的に受けている人間のほうが給料が高いです。

銀行員と水道の修理工の間で給料がほとんど変わらないということもあります。

そのため、スイスでは、職業訓練校に進むことに対して劣等感といったものはなく、大学は高度な知識や学問を学びたい人間が進むところであり、そうした志向はなく、早く給料を手に入れたいという人間は概して職業訓練校に進むようになっています。

そういった構造があるため、少数の大学に進学する人間は学問を学びたいという意欲が強く、大学進学した人間の大学課程修了後の専門研究課程への進学率は高く、スイスはOECD諸国で最高の比率となっています。

また、このようにスイスの国民の多くが早い段階で特定の分野の職能を磨いていくため、高度なスキルを持つようになり、他国からスイスに移り、職を得ようとする人間から仕事を奪われにくいようになっています。

スイスの学校( photolibrary https://www.photolibrary.jp

スイスの強みであるグローバル中小企業の秘密

スイスの産業構造の特徴は、ノバルティスやネスレといった世界レベルの大企業と、それを支える多数の中小企業とが存在することです。

スイス政府の産業振興策は、中小企業振興策と言っても過言ではなく、大企業への政策的支援はほとんど見られません。スイス政府は中小企業の重要性を理解し、スイス産業の生きる道として中小企業を育成しています。

その中小企業支援策の中心となっているのが競争政策です。スイスは世界各国と関税なしで自由に取引を行うFTAを締結しているため、スイス企業の市場が世界規模に広まっていると同時に、スイス企業は世界規模での競争環境に入っていることになります。農業を除き、スイスの国内市場は全く保護されていないと言っても過言ではなく、政府は国内企業がグローバル市場で勝ち抜くことを強いているのです。

そうしたスイスのグローバル中小企業の特徴としては以下の4つが挙げられます。

高品質を製品価値に

スイスのグローバル中小企業に共通する最大のポイントが、高品質へのこだわりとその維持です。

スイスは繊維産業がその中心であった時代は、フランスやイタリアの後塵を拝する二級品の生産国でした。しかし、時計産業の発展とともに、その高い技術力が世界で認められ、スイス製は高級品の代名詞となっていきました。人件費の高いスイスにおいて、大量生産による安価な製品の生産では、ビジネスとして成り立たないことを、スイスの中小企業は強く認識しています。このため、他社には実現できない高品質の製品を供給することで、利益率の高いビジネスを実現しているのです。

ブランド維持への努力

高品質であるだけでなく、それを常に維持していくことで作り上げたブランドの維持を、ビジネスの最も重要な課題としている企業も多くあります。ブランドを維持するために、あえて中国では売らないといった戦略や、販売店を限定して、高級品としてしか販売しない、といった戦略がとられています。これらの戦略に共通するのは、大量に売ることよりも、ブランドを維持することのほうを重視しているということです。

ニッチ製品への集中

高人件費のスイスにおいて、製品の利益率を高めるためのもう一つの工夫が、他社の共通しないニッチ市場の製品を供給するビジネスです。これらのニッチ製品は、技術的に高度なわけではないので、他社の参入による市場の侵食が予想されるところだが、これらの企業はいずれもたゆまぬ製品開発を続け、他者に追いつかれないでニッチ市場を支配するビジネスモデルを実現しています。

このようなニッチ市場を守るためには、綿密な市場予測と市場開拓、そして独特なビジネススタイルが必須のようです。これらを実現することで、追従者に勝ち続けることのできるビジネスを実現しています。

ファミリービジネス

スイスのグローバル中小企業に共通する特徴として、日本では同族企業と呼ばれるファミリービジネスが多いことが挙げられます。もともとスイスの企業の80%、従業員の75%はファミリービジネスで働いています。このようなファミリービジネスに共通するのは、経営者の強い意志による独自の経営スタイルです。

企業を大きくするという志向があまりなく、大きくする必要がないからこそ、販売先・販売店を絞り、ブランドを維持し、売上高より利益率を重視する経営が実現できているのです。

以上がスイスの経済や高いイノベーション力に関する記事でした。スイスは国土は九州地方ほどと小さく、周りを国際政治、経済の主要プレイヤーであるドイツやフランスに囲まれていますが、自国にできる創意工夫によって、世界に誇れるイノベーションを数多く生み出しています。そうしたスイス企業に学べることも多いでしょう。

参考文献

この記事は主に以下の文献、サイトをもとにして書かれました。

『スイス イノベーション力の秘密 競争力世界一の国に学ぶ』 江藤学・岩井晴美著

世界知的所有権機関 レポート

https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo_pub_2000_2022/ch.pdf

https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo-pub-2000-2022-section3-en-gii-2022-results-global-innovation-index-2022-15th-edition.pdf

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