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ブラジル視点から見たG7サミット

ブラジルのルーラ氏は今年14年ぶりにG7サミットに招待されました。それは何を意味するのでしょうか?また、ルーラ氏はどのような未来を望んでいるのでしょうか?

13年ぶりに会合に招待されたブラジル

ブラジルのルーラ大統領がG7サミットにゲストとして参加するのはこれが7回目です。ルーラ大統領は2003年から2010年までブラジルの第35代大統領を務めた後、2023年より第39代大統領に就任しています。ルーラ大統領はブラジル史上最も人気のある政治家の内の一人と呼ばれており、35代大統領の期間は世界で最も人気のある政治家の内の一人でした。

どうして、ブラジルは2000年代に頻繁にG7サミットに招待されていたのに、2009年から次の招待まで14年もの期間が空いたのでしょうか。その理由を説明する要因として、G7の衰退と新興諸国の台頭があると専門家は言います。

2000年代

2000年代、ブラジルは第一期と第二期のルーラ政権のもとで存在感を増していき、国際的注目を集めていました。そうしたブラジルの威信の高まりによって、ブラジルは2003年から2009年に6回G7サミットに招待されました。

2010年代

2009年以降、ブラジルが13年間G7の会合に招待されなかったのは、G7の重要性が下がり始め、代わりにG20の存在感が高まっていったことで説明できます。2008年に発生した国際的な債務危機とそれに伴う米国の覇権が下がり始めたことによって、G20の重要性がG7よりも重視されるようになり始めました。「ブラジルがG7に招かれなくなったのは、ブラジルの国際的地位の低下ではなく、別の会合の存在によって、G7への出席の必要がなくなったからである」とサンパウロ経営大学院の国際関係学教授カザロエス氏は主張します。

2023年

今年の招待も、2010年代から続く新たな時代の潮流から来るものです。ブラジリア大学 およびイリノイ大学 の国際関係学教授であるアントニオ・カルロス・レッサ氏は今回のG7サミットへのブラジルの招待はルーラ氏というよりもG20への敬意の方がはるかに大きいと主張しています。というのも、ブラジルは今年12月にG20の議長に就任するからです。「招待されたのはルーラやルーラのブラジルではない。このサミットの場合、こうした状況と新興諸国にアプローチするというG7の意図によるものである。」とレッサ氏は説明しています。

ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領、広島でのG7会議に合わせて岸田文雄首相との会談に出席(AP)

ブラジルの狙い

次にブラジルがこの会合で主張したことについて見ていきましょう。ルーラ大統領は、G7の公式行事と並行して12回の会合を開催し、そのうち9回は政府首脳と、2回は多国間機関の代表と、1回は実業家との会合を行いました。

環境と気候

ルーラ大統領は、演説の中で気候問題に対する同国の取り組みを強調しました。同氏は、この問題を国際的に議論するブラジルの「道徳的かつ政治的権威」を強調しました。

ルーラ大統領は富裕国に対し、環境保全のための資金提供の約束を果たすよう改めて促しました。「約束した1,000億ドルの達成にはまだ長い道のりがあります。しかし、いずれにしてもブラジルは自力でやるでしょう。アマゾンを保護することはブラジル国民の義務であり責任です。これこそがブラジルが世界に提供できるものであり、私たちのアマゾンは消滅しないという安心です。木を切り、森を植え、好きなものを何でも伐採したい人は誰でもいますが、アマゾンの森は誰のものでもありません。我が国の主権領土ではありますが、それは人々と地球のものです。」とルーラ大統領は主張しました。

アマゾンの気候変動をシミュレーションするために建築されたタワー(AP)

飢餓との闘い

ブラジルにとって飢餓との闘いは優先課題の1つでした。ルーラ大統領は、G7に出席した他の14カ国(加盟7カ国に加え、ゲスト8人が参加)と、ブラジルの優先課題の1つである飢餓の撲滅を扱う共同書簡に署名することに成功しました。これによって生まれた、強靱な食料安全保障のための広島行動宣言は、「手頃な価格で安全で栄養価の高い食料へのアクセスは人間の基本的なニーズである」ことを再確認し、世界的な安全保障危機に対応するために各国が共同して行動することを宣言しています。

2022年に行なわれたブラジルの新型コロナウイルス感染症パンデミック下における食料不安に関する第二回全国調査では、約3310万人のブラジル人が飢えに苦しんでいると報告されました。そして、恐ろしいことに2021年のときよりも1400万人増加した数字です。

ブラジルはこの要因としてロシアのウクライナの戦争を問題視しており、両国の戦争が早めに終結することを望んでいます。G7サミットで発表された強靭な食料安全保障のための広島行動宣言では、「我々は、ウクライナ戦争の悪影響に深い懸念を持って注目し、それが成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、食料とエネルギーの不安の増大、そして世界経済の不安定化によって計り知れない人的苦痛を引き起こし、世界経済にすでに存在する弱点を悪化させていることを強調する」と述べられています。

ゼレンスキーとルーラ

以上のような理由のため、ルーラ大統領はウクライナとロシアの戦争に関して中立的な立場をとっています。ルーラ大統領はブラジルが両国の戦争の終結の調停者の役割として動こうとしています。しかし、今回のG7サミットでウクライナのゼレンスキー大統領は、予定されていたブラジルとの会談に出席しませんでした。

この欠席はブラジルとウクライナの会議の調整の遅れによって起こったものです。これに関して、ルーラ大統領は動揺したものの、以前と同様にウクライナとロシアの戦争の終結の道を模索し続けることが、国連などの国際機関内やグローバル・サウスの国々との間でブラジルの利益になると考えています。

ルーラ大統領は、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領も出席したゲスト国とのG7ワーキングセッションに参加 (AFP)

ブラジルの望む世界

ルーラ大統領は、国際システムに対して非常に改革主義的な見方をしています。米国や欧州が行使するリーダーシップに対して非常に批判的な見方をしており、国際的な分野でグローバル・サウスからの声を強化することが、より多元的で民主的なシステムを提案する方法でもあると信じています。

そのため、ルーラ大統領はこのウクライナとロシアとの両国の間で調停者として平和構築を促進する役割を務めることで、ブラジルを地域大国としてだけでなく世界的な使命を持った大国として国際的にみられ、環境、飢餓との闘い、食料安全保障、開発政策など、国際的に重要な複数の問題についての関連当事者としての存在感を増そうとしています。

「私は会談でのゼレンスキー大統領の演説を注意深く聞きました。彼は確かに会議で私のスピーチを注意深く聞いていました。そして、以前と同じポジションを続けます。私は、インド、中国、インドネシア、その他の国と協力してブロックを構築し、世界に平和政策を構築しようとしています。世界は戦争を必要としていません。貧しい人々に富を分配するために世界が再び成長できるよう、世界は平和と静けさを必要としています」とルーラ大統領は宣言しました。

ルーラ大統領と国連事務総長アントニオ・グテーレス氏の会談(Ricardo Stuckert/Presidency of the Republic)

主な参考サイト

この記事は主に以下のサイトを参考にして書かれました。

https://www.dw.com/pt-br/o-significado-do-retorno-do-brasil-ao-g7-depois-de-14-anos/a-65678501

https://www.cnnbrasil.com.br/internacional/zelensky-nao-apareceu-para-reuniao-diz-lula-apos-fim-da-cupula-do-g7/

https://oglobo.globo.com/mundo/noticia/2023/05/combate-a-fome-e-desencontro-com-zelensky-veja-as-3-vitorias-e-2-derrotas-de-lula-no-g7.ghtml

https://www.dw.com/pt-br/apesar-do-g7-interessa-a-lula-seguir-articulando-por-paz/a-65704515

https://www.istoedinheiro.com.br/o-significado-do-retorno-do-brasil-ao-g7-depois-de-14-anos/